桝田佳寛先生の日本建築学会大賞受賞

橘高義典(昭和55年卒/ 東京都立大学名誉教授)

 桝田佳寛先生が、「鉄筋コンクリート造の品質向上と高性能化に関する一連の研究と技術普及活動による建築界への貢献」で 2025年度の日本建築学会大賞を受賞されました。私が仕入研究室に卒論でいた当時、同研究室出身の桝田先生が勤めていた建築研究所では、確率論に基づいたコンクリート強度を研究されていました。桝田先生の博士論文の発表会は難しかったです。ただ、その内容は、今のJASS5(鉄筋コンクリート工事標準仕様書)の根幹になっており、建築を施工する上で多大な貢献をしています。桝田先生は2001年に日本建築学会賞(論文)を受賞していますが、私もコンクリートの破壊力学に関して同年に受賞し縁が深くなったように思います。

 先生は1970年に東京工業大学理学部数学科を卒業され、同年4月に工学部建築学科の2年生に学士編入学されました。建築学科では製図の時間の関係で3年生ではなく2年生に編入です。先生は1975年に修士課程を修了し建設省建築研究所に入所されました。当時は大量のフライアッシュが混入された欠陥生コンが顕在化し完成した建物を取り壊しするなど大きな社会問題となりました。建築界ではその後しばらくの間はフライアッシュの使用はタブー視されました。先生はコンクリート強度の早期判定と言う課題に取り組み、数学を用いて強度判定式の設定方法を導かれました。その成果をまとめて東京工業大学から工学博士の学位を授与されました。1982年から1983年にかけて科学技術庁長期在外研究員としてフランスの建築土木試験研究センター(CEBTP)に留学されました。

 フランスから帰国後、建築物の耐久性向上技術の開発と言う総合技術開発プロジェクトに参画しました。プロジェクトの中で鉄筋コンクリート造部会では鉄筋腐食、ひび割れ、凍害、大たわみ、中性化、漏水、強度劣化、表面劣化と言う8劣化現象について原因、劣化の進展、その対策について指針が纏められました。その頃、関西以西の鉄筋コンクリート構造物に塩害やアルカリ骨材反応による早期劣化現象が顕在化し、国会でも取り上げられるなど大きな社会問題となりました。

 先生は、4,000棟以上の建築物の外観調査結果、数十棟での塩化物量や劣化調査結果を分析して、アルカリ骨材反応抑制対策指針及びコンクリート中の塩化物総量規制基準の策定に尽力されました。その後、いかに良質な鉄筋コンクリート造建築物を建設するかという課題のもと、法や国家規格の整備、日本建築学会の仕様書や指針の制定・改定に尽力されました。

 先生は、建設省建築研究所に入省後、我が国の鉄筋コンクリート造建築物の品質向上を目指した様々な研究や技術普及活動に尽力されてきました。1990年には建築研究所無機材料研究室長となり、所内の研究や建設省総合技術開発プロジェクトの管理と運営のほか、国内外の建築研究の指導的役割を果たされました。1995年に宇都宮大学工学部に教授として着任され、2013年宇都宮大学を定年退職し、名誉教授の称号を贈られました。

 一方、1980年ごろより、コンクリート構造物の大型化、地球環境問題などからコンクリートには様々な性能が付与されるようになりました。産学官で1988年から5年計画で推進された建設省総合技術開発プロジェクト「鉄筋コンクリート造建築物の超軽量・超高層化技術の開発」では、建築研究所無機材料研究室長としてコンクリートの高性能化に関する研究を推進されました。その後、CO2排出量削減についても精力的に取り組み、高炉スラグ微粉末や副産物を利用したエコセメントの実用化などの研究にも尽力されました。

 これら一連の成果は、118編を数える日本建築学会構造系論文などを含めて多数の学術論文にまとめられているとともに、主査として制定・改定作業を務めた日本建築学会の『コンクリートの調合設計指針・同解説』(1994/1999/2015年版)、『高流動コンクリートの材料・調合・製造・施工指針(案)・同解説』(1997年版)、『コンクリートの品質管理指針・同解説』(1999年版)、『鉄筋コンクリート造建築物の耐久設計施工指針(案)・同解説』(2004年版)、『エコセメントを使用するコンクリートの調合設計・施工指針(案)・同解説』(2007年版)、『構造体コンクリートの品質に関する研究の動向と問題点』(2008年版)、『建築工事標準仕様書・同解説JASS5鉄筋コンクリート工事』(2009年版)、『建築工事標準仕様書・同解説 JASS5N 原子力発電所施設における鉄筋コンクリート工事』(2013年版)、『建築工事標準仕様書・同解説 JASS10 プレキャスト鉄筋コンクリート工事』(2013年版)、産業調査会『コンクリート建物改修辞典』(2005年版)などに反映されています。

 また、桝田先生はこれらの研究の傍ら39名の博士(工学)を指導し、後進の研究者を育ててこられました。日本建築学会においては鉄筋コンクリート工事運営委員会主査、材料施工委員会委員長などを歴任、さらには2003年に日本圧接協会会長、2010年に日本コンクリート工学協会(現日本コンクリート工学会)会長、2019年に建築研究振興協会会長などを務められました。2003年から10年間に渡って宇都宮大学他と、韓国檀国大学の鄭教授(東京工業大学1988年博士課程修了)との日韓材料施工定期セミナーを行うなどの国際的な活動も実施されました。

以上、桝田佳寛先生は多数の研究論文を発表するとともに、我が国の鉄筋コンクリート造建築物の高品質・高性能化に多大な貢献を果たされました。桝田先生は、現在目を悪くしています。しかしながら、頭脳の明晰さは変わらず、先日の祝賀会でも化学者ラヴォアジエの質量普遍の法則の重要性を熱心に話していました。これからも、ますますご活躍いただければと思います。

フランス建築土木試験研究センター
(CEBTP)にて
桝田先生現在